ストレスに一番効くのは買い物だと教えてくれたのは中村うさぎ『ショッピングの女王』シリーズだった。同作を読めば、自分の浪費なんて大したことないと誰もが思うはずだ。預貯金はゼロに近いのに4000万円のマンションを買おうとする女王中村。CHANELの予約していた衣類をキャンセルしに足を運んで、別のジャケットを購入してしまう女王様……。そんな凄まじい買い物の記録がつづられている。



だから上には上がいるし、中村の女王様を見てたら自分なんて別に……そんな言い訳を胸に、つい先日も、PMSがとか寒いからとかお腹が空いたからとか眠いからとか酒が指先まで回ったからとか、いろんな言い訳を並べながら喉から欲しくてここ数カ月もんどり打っていたバッグをポチろうとして何とか理性に勝利したのに、完全にシラフな私は理論武装が得意で強かった。まっすぐ画面を見て確たる自分の意思でポチってしまったのだ。うける。

思えば10代のころからバッグへの異様な執着はあったし、バッグ側にも愛されていたと思う(と信じ込んでいるだけなのだが)。とはいえ上を見たらきりがないし、エルパトしている層から見たらバッグにかけた金額なんて大したことないと思う。クリスマスが近く今年1年頑張ったし毎月地獄のようなPMSを乗り越えて生きてるし、といろいろ理由をつけても良い時期ではあったけど、それまでにもいろんなもの買ったよね……という弱き声はたちまちかき消され、いや買ったけど全部超目でながら使ってるから新たにお迎えしても大丈夫! なんていう崩壊寸前の多頭飼い現場の主みたいなことを全力で叫んでいた。心の中で。

というわけで、ほぼ罪悪感も何もなくポチったあと、不思議な現象が起こった。ひどいPMSがふと緩和されたのだ。喉から手が出るほど欲しかったバッグが数日後に届くというこの現実が、たちまちPMSを治療してしまったようだった。んなアホな。でも身体全体がふわりと暖かく、筋肉も珍しく緊張していない。この極寒というのに。誰かにイラッとすることをされたり云われたりしても、ま、数日後にバッグ届くしいいか、という気持ちになる。

というか、もうバッグを買おうかどうしようか迷っている期間に脳の片隅にあった「バッグを買わない」という選択肢が症状の根源的な原因だったのではないかとすら思う。病気か(完全に病気です)。

思えば財布を買ったときも某ブランドの人気ラインを買ったときもどうしても欲しかったパールのアクセサリーが入荷されたと連絡が届いたときも、そしてブティックで試着してあまりのシンデレラフィット感に運命だと思って興奮しながらウィッシュリストに入れたときも、人生に起こってきたどの出来事よりも昂揚したし何かしらの不具合や不調を癒やしてくれてきたように思う。

小さな買い物はたぶん3日から1週間。大きな買い物になると数カ月から1年くらいは効く。とりあえず今回は3カ月くらいは効いてくれそうに思う。そして次、新たな買い物に手を染める。最高の良薬ではあるけれど、最高に苦い。でも何よりも効くことが分かっている。これはもう自分の健康寿命を伸ばすためにも必要なことだと言い聞かせながら、今日もウィッシュリストを眺めて胸を高鳴らせている。