映画「聖なる鹿殺し」を見た。監督はヨルゴス・ランティモス。ハネケ、トリアーと並んで嫌な気分にさせてくれる天才監督として一部で大人気。というわけで、当然私も大好き。



でも、「籠の中の乙女」くらいしか見たことがなくて、調べたらu-nextに「ロブスター」があったのでこれは見ないと思ったくらい「聖なる鹿殺し」がおもしろかった。

最近見た中では覚えている限りかなり上位にしっくりくる作品だった。鬱系ヒューマンドラマ+呪いという感じかな。でも和製ホラーみたいにおどろおどろしい感じはなく、全編にわたってとにかく画が美しい。さすがランティモス。

物語は過去にやめてたはずの飲酒が原因で手術に失敗した心臓外科医(コリン・ファレル)が主人公。彼には眼科医の美しい妻(ニコール・キッドマン)と美形の子どもたちがいる。裕福で順風満帆な人生を送っていたが、前述の医療ミスによって結構メンタルにくる感じの罪悪感を抱いている。医療ミスは取り沙汰されることなく隠蔽されたんだけど同僚の麻酔科医はちゃんと知っていて、後に妻がアレな方法で聞き出してる。

心臓外科医は罪悪感と問題が外に漏れることを恐れて、死なせてしまった患者の16歳の息子とまるで親子のような関係を築いている。彼の名前はマーティン。瞳はブルー系なんだけど顔立ちはちょっとアジア系で、暗い瞳とか雰囲気がめちゃくちゃうまい若手俳優。マーティンは心臓外科医によく懐いているけど、あるときからストーカーぽくなった上に、「あなたは僕の家族を1人殺したんだから、あなたも自分の家族を1人殺さなきゃいけない。じゃないと3人(妻、娘、息子)が全員死ぬよ」みたいなことを言い出す。

最初はたちの悪い脅迫だと思っていた心臓外科医だったけど、本当に娘と息子の具合が悪くなってきてガチで死にそうに。マーティンを殴ったり監禁したりして何とか“呪い”を解こうとするも無理で、しょうがなく家族のうちの1人を殺すはめに。

というメインストーリーもいやーな感じなんだけど、随所に挿入されている人間の嫌な部分がこれでもかっていうほど不快な感じに書かれていて、それこそ真髄という感じだった。

マーティンのキャラも特別な力を持ったカリスマ的な雰囲気というわけではなく、どちらかというと陰気でミステリアス。でも、人の心を上手に掌握しちゃう。心が不安定な人だとすっと取り込まれそうな感じで、その不気味さが何とも最高なんだよね。

ランティモスの描くキャラって人間味あふれるサイコパスというか。平気であやめたりつぶしたり陥れたりするけど、その表情は無。でも一応個人的に主張したいこともあるし傷つくこともある。映画に登場するサイコパスっていわゆるソシオパスぽい感じで、とにかく異常者! 変態! やばいこと大好き! みたいに描かれることが多いけど、リアルではランティモスの描くようなサイコパスが本物に近い気がする。

ところでいつになっても何の映画でもニコール・キッドマンは圧倒的に美。すごすぎる。声もかわいいし、前世でどんな徳積んだら、ああ生まれてこれるのか不思議よな。