映画「怪物」を見た。以下、ネタバレありなので見てない人は注意です。
是枝裕和監督作品で、カンヌでクィア・パルム賞に輝いた作品。ということはクィア要素があるんだと思いながらネタバレを一切見ずに視聴。
まずなかなかおもしろかったかな、という感想です。是枝作品は「誰も知らない」が本当に良くて。10作品は見ているけど、それ以降は正直パッとしなかった。「万引き家族」も見たけど、そこまで……? というのが本音。でも今作は主に前半でミスリードさせて後半で真実が明らかになるという演出も良かった。見る人によってひとつの出来事がこれほどまでに違うという視点は藪の中的でもあるし、現実でもよくあることで、それをあえて映画作品として昇華したことで改めて人の認識の危うさを感じた。
前半は小学生の湊やそのクラスメイトの依里がとんでもないモンスターであるかのように描かれる。それは大人たちの視点で、湊が小動物を弄んで殺しているという描写があり(後に誤解だと判明)、依里には放火疑惑が浮上して頭の中では怪物を飼っているかのように描かれる。鑑賞者もこの大人たちの視点をたどるような演出になっていて、タイトルの怪物とは彼らのことだろうかと予想させる。
他にも、小学校の校長先生は旦那が孫をあやまって轢き殺しているんだけど、実際轢いてしまったのは校長先生本人という噂がある。どうやらこれは真実っぽくて、校長先生は子どもという存在自体があまり好きではないような描写も。湊の母親も子ども思いの良い母親である一方で、モンスターペアレント的な発言が目立つ。さらに、亡くなった旦那をやたらと尊重するような発言があるけど、実はこれは旦那が不倫旅行先で突然死していることへのコンプレックスだということが後半で明らかに。これを踏まえて見ると湊の母親は物語の中でダントツの不気味さはある。なお演じているのは安藤サクラで、彼女の怪演がまた素晴らしい。
というわけで前半は怪物である子どもたちに翻弄されるヤバい要素しかない大人たち……という描かれ方をしている一方で、後半はネタバレパートに。
実は湊の性指向は男性、つまりゲイセクシュアルであり彼はまだそんな自分を受け入れられない。思いを寄せているのはクラスのいじめられっ子である依里。教室では話し掛けないでほしいと伝えるものの、2人きりのときは依里にメロメロな様子がとことん描かれる。しかし湊は母親から普通の家庭を作ることを切望されており、たびたびその思いを聞かされている。そのため、異性を愛することができない自分にコンプレックスと嫌悪感を抱いており、そのフラストレーションから暴れたり嘘を付いたり果ては走行中の車から飛び降りたりもする。でもなんでそうしたのか聞かない母親は実は気付いてるっぽい。
湊の嘘はエスカレートして、担任である保利を追い詰めることに。保利は当初、湊に残虐性があり依里をいじめていると勘違いしており、湊は保利を利用して自分の性指向が周りにさとられないように画策する。結果的にうまくいくんだけど、最終的に職を追われた保利が湊と依里の関係に気付いて謝罪することに。
好きな人を好きだと胸を張って公言することができない世の中に絶望した湊は、風呂場で自殺未遂をはかった依里とともに生まれ変わろうと決意する。嵐の日に廃バスに乗って世界の終わりを感じながら期待する2人。嵐が去り外に出る2人。結局生まれ変わることはなかったが、外の世界はうってかわって晴天となっており、まるでガラリと姿を変えたかのようにも見える。2人は青空の下、緑萌える草木をかき分けて、かつて柵によって行き止まりになっていた線路道を笑顔で走っていった。
タイトルにあった怪物とはつまり、人知れずところで(鑑賞者の見えないところで)残酷な行いがなされていること、それを行っている人たちの一部分のことだと感じた。
つまり例えばいじめを行っているクラスメイトたちはおそらく駅前ビルの放火犯である(保利先生が彼女と燃え盛るビルを見てるところでわざとらしく走ってきてぶつかったのがいじめっ子たちだった気がしたんだけど、どうだろう)。さらに、明らかにはされていないけど、孫を意図的に轢き殺した校長先生のその秘めた残忍性。息子の性指向に気づきながらも不倫旅行で夫に死なれたことから人生を取り戻そうと躍起になって息子に“普通の人生”をやんわり強要するという母親の自分本位な(でもきっと他人からは「それは責められないよ~」とか言われるんだろうけど)振る舞いとか。あとは依里の父親の日常。高学歴エリートで一流企業に就職したけど、性格に難を抱えていることからリストラされて、息子の性指向が受け入れられず日常的に心理虐待を繰り返していることとか。
そういう普通の人たちの中に眠る狂気を怪物だと痛烈に指摘した作品だと感じた。怪物というよりモンスター性でありバケモノだと言ったほうが正しいかもしれない。でもそうしちゃうと燃えそうだから、あえて怪物にしたのかなと。
怪物って誰しもの中に眠っているもので、ちょっとしたことでそいつらは目を覚ます。でも見えていないことも多いし人には勘違いもある。あなたが見ていることは本当に真実? って監督にいわれた気がした。
是枝裕和監督作品で、カンヌでクィア・パルム賞に輝いた作品。ということはクィア要素があるんだと思いながらネタバレを一切見ずに視聴。
まずなかなかおもしろかったかな、という感想です。是枝作品は「誰も知らない」が本当に良くて。10作品は見ているけど、それ以降は正直パッとしなかった。「万引き家族」も見たけど、そこまで……? というのが本音。でも今作は主に前半でミスリードさせて後半で真実が明らかになるという演出も良かった。見る人によってひとつの出来事がこれほどまでに違うという視点は藪の中的でもあるし、現実でもよくあることで、それをあえて映画作品として昇華したことで改めて人の認識の危うさを感じた。
前半は小学生の湊やそのクラスメイトの依里がとんでもないモンスターであるかのように描かれる。それは大人たちの視点で、湊が小動物を弄んで殺しているという描写があり(後に誤解だと判明)、依里には放火疑惑が浮上して頭の中では怪物を飼っているかのように描かれる。鑑賞者もこの大人たちの視点をたどるような演出になっていて、タイトルの怪物とは彼らのことだろうかと予想させる。
他にも、小学校の校長先生は旦那が孫をあやまって轢き殺しているんだけど、実際轢いてしまったのは校長先生本人という噂がある。どうやらこれは真実っぽくて、校長先生は子どもという存在自体があまり好きではないような描写も。湊の母親も子ども思いの良い母親である一方で、モンスターペアレント的な発言が目立つ。さらに、亡くなった旦那をやたらと尊重するような発言があるけど、実はこれは旦那が不倫旅行先で突然死していることへのコンプレックスだということが後半で明らかに。これを踏まえて見ると湊の母親は物語の中でダントツの不気味さはある。なお演じているのは安藤サクラで、彼女の怪演がまた素晴らしい。
というわけで前半は怪物である子どもたちに翻弄されるヤバい要素しかない大人たち……という描かれ方をしている一方で、後半はネタバレパートに。
実は湊の性指向は男性、つまりゲイセクシュアルであり彼はまだそんな自分を受け入れられない。思いを寄せているのはクラスのいじめられっ子である依里。教室では話し掛けないでほしいと伝えるものの、2人きりのときは依里にメロメロな様子がとことん描かれる。しかし湊は母親から普通の家庭を作ることを切望されており、たびたびその思いを聞かされている。そのため、異性を愛することができない自分にコンプレックスと嫌悪感を抱いており、そのフラストレーションから暴れたり嘘を付いたり果ては走行中の車から飛び降りたりもする。でもなんでそうしたのか聞かない母親は実は気付いてるっぽい。
湊の嘘はエスカレートして、担任である保利を追い詰めることに。保利は当初、湊に残虐性があり依里をいじめていると勘違いしており、湊は保利を利用して自分の性指向が周りにさとられないように画策する。結果的にうまくいくんだけど、最終的に職を追われた保利が湊と依里の関係に気付いて謝罪することに。
好きな人を好きだと胸を張って公言することができない世の中に絶望した湊は、風呂場で自殺未遂をはかった依里とともに生まれ変わろうと決意する。嵐の日に廃バスに乗って世界の終わりを感じながら期待する2人。嵐が去り外に出る2人。結局生まれ変わることはなかったが、外の世界はうってかわって晴天となっており、まるでガラリと姿を変えたかのようにも見える。2人は青空の下、緑萌える草木をかき分けて、かつて柵によって行き止まりになっていた線路道を笑顔で走っていった。
タイトルにあった怪物とはつまり、人知れずところで(鑑賞者の見えないところで)残酷な行いがなされていること、それを行っている人たちの一部分のことだと感じた。
つまり例えばいじめを行っているクラスメイトたちはおそらく駅前ビルの放火犯である(保利先生が彼女と燃え盛るビルを見てるところでわざとらしく走ってきてぶつかったのがいじめっ子たちだった気がしたんだけど、どうだろう)。さらに、明らかにはされていないけど、孫を意図的に轢き殺した校長先生のその秘めた残忍性。息子の性指向に気づきながらも不倫旅行で夫に死なれたことから人生を取り戻そうと躍起になって息子に“普通の人生”をやんわり強要するという母親の自分本位な(でもきっと他人からは「それは責められないよ~」とか言われるんだろうけど)振る舞いとか。あとは依里の父親の日常。高学歴エリートで一流企業に就職したけど、性格に難を抱えていることからリストラされて、息子の性指向が受け入れられず日常的に心理虐待を繰り返していることとか。
そういう普通の人たちの中に眠る狂気を怪物だと痛烈に指摘した作品だと感じた。怪物というよりモンスター性でありバケモノだと言ったほうが正しいかもしれない。でもそうしちゃうと燃えそうだから、あえて怪物にしたのかなと。
怪物って誰しもの中に眠っているもので、ちょっとしたことでそいつらは目を覚ます。でも見えていないことも多いし人には勘違いもある。あなたが見ていることは本当に真実? って監督にいわれた気がした。