植本一子『かなわない』(タバブックス)を読み終えた。植本一子は新進気鋭の写真家で、ミュージシャンの写真を多く撮っている印象があるけど、たぶんもっとたくさんの良い仕事をしている人だと思う。写真は全く詳しくないので彼女の仕事や人隣を知ったのはこの日記のエッセイ集が初めてだった。読んでいて、50代で亡くなった人気ラッパーECDの妻だということに気付く。ECDは結構前にエッセイ『失点・イン・ザ・パーク』を読んでいて、これに登場する当時のECDの恋人・チカちゃんではないよね? と調べたら、チカちゃんと別れた後に出会って結婚した相手だと知った。お子さんも2人誕生していた。



文化的教養のない家庭で育ったこともあり、アーティスト同士の日常生活なんてさぞかしクールで格好良いのだろうな、と羨ましさを携えながら読み始めたら、まず冒頭のエピソードでそんな羨望は吹き飛んで文章のうまさに唸ってしまった。悲しみに共感した時点でもう引き込まれていた。自分が経験したことに近い話で、そのとき彼女がどう思ったのか、どう行動したのかが冷静に第三者の目線に置き換えられて丁寧に丁寧につづられていた。思わず息を飲んだ。子どもたちと石田さん(ECD)との日常や実母との確執から苦しんでいる実情、石田さんと離婚したいという本音、家庭の外につくった恋人との破局なども赤裸々につづられていて、とにかく激しく「こんなことまで書くんだ」というところまで嘘偽りなく記されていた。

終わりの方には『ちひろ』『ちひろさん』『ショムニ』などで知られる漫画家の安田弘之に実母との不和について話を聞いてもらうカウンセリングのようなやり取りがあった。一言で言うと秀逸だった。これは毒親に悩む人全てに読んでもらいたいと思うほど完璧に近い解説だった。なぜ彼女が生きづらいのかが本人よりもよく分かっている安田弘之。何者なんだ(いや、漫画家だけど)。そしてこれは彼女に限らない。母に苦しんだ多くの人に当てはまるのではないか。




怒涛の内容を全て読み終えたときには、すっかり彼女のファンになっていた。そして、この人生の続きが読みたくなってしまっていた。すぐに『家族最後の日』を買って今読んでいるけど、これもやばい。いろんな意味で絡め取られてしまう。ECD+植本一子の『ホームシック』も届いたので、この次に読んでいこうと思う。




ドラマ「きのう何食べた?」のシーズン2が始まる。意外とこういう心温まる系の話も好きなんですよ。本当に意外だと思われるけど。原作者のよしながふみがそもそもすごく好きで、10代からほとんどの作品を読んでいる。どの作品も人の弱さやどうしようもなさを最終的には許しながらも、許すことができない一線を超えた者には手厳しい。人間は残酷だから、とそこで見捨てることもしない。

『きのう何食べた?』はゲイカップルのほのぼの日常と家庭料理の話で、ゲイのエイジングや社会でカミングアウトする/しないへの葛藤などが丁寧に描かれている。ドラマ化はファンゆえに無責任に心配していたけれど、特にケンジ役の内野聖陽が原作のケンジのしぐさや口調を完璧に再現していて、初めてシーズン1の第1話を見たときは心の奥から感動した。シーズン2でもやっぱり内野聖陽の演技や表情のひとつひとつに感動しっぱなしで、たぶんまたいつか泣かされるんだろうなと思っている。