フジテレビ連ドラ「いちばんすきな花」が始まった。「silnet」のスタッフが再集結ということでヒット路線を狙ってくるんだなと期待する一方で、どうしても触れずにはいられない問題が解決しないまま宙ぶらりんになっている。
「silent」では聴覚障害を持つ想(目黒蓮)の姉・華(石川恋)が“ゆうき”という名前の息子を育てている。ドラマ終盤の過去回想で華がおなかの赤ちゃん(ゆうき)の耳がちゃんと聞こえるかどうか心配しており、夫の実家からも心配されたという描写がある。無事出産し、検査の結果耳に異常がないことがわかり喜ぶ華。そして彼女は息子に「優生(ゆうき)」と名付ける。
物語の流れから優生保護法の想起は回避できず、しかも音声だと漢字は分からなかったものの、ドラマに字幕をつけて見ていた聴覚障害者を含む人たちだけが気付いたという残酷な事態に。脚本家がどういう意図でこんな名前を採用したのかが不明で未だにコメントは出されておらず、結局とあるNPOがフジとBPOに意見書を提出する騒ぎに発展した。ただ、これについては後日BPOが審理対象とならないとの判断を下している。
脚本家は看護師と助産師の資格を有しており、助産師として働いていたため優生保護法を知らないはずはない。
ではこの優生というネーミングが問題なかったかといえば、そうはどうしても思えないのだ。間違いなくマイクロアグレッションにあたり、事実、聴覚障害者当事者からはショックを受けたという声がSNS上で多数見受けられた。
さすがに、脚本家が一番見てほしかったはずである層を傷つけようと思い優生という名前を採用したのではないと思いたいが、では倫理的に納得のいく理由は本当にあったんだろうか。
聞こえることが優生だとすることへの皮肉だとしたら下手だとしか言いようがないし、そもそも華はそういうことを担うようなキャラでもない。
成功のためにマイノリティーを利用しただけだったんだろうか。一番見てほしかったはずの層にこれだけ批判されているのに制作側が何も表明しないのは、ヒットを飛ばすための道具でしかなかったんだと思われてもしょうがないように思う。これは、絶対に対応しなければならなかった事案ではないか。ヒットしたんだからいいじゃんめんどくせえ、と障害とは無縁なマジョリティーたちが飲み会の席で苦笑する様子が目に浮かんでしまった。
さて、そんなスタッフたち再結集の「いちばんすきな花」。脚本家が坂元裕二を尊敬していることもあり、独特な言い回しと台詞の掛け合いが影響受けたんだなあという印象。また、登場人物たちがメジャーな少女漫画に出てきそうな名前ばかり。潮ゆくえ(多部未華子)、深雪夜々(今田美桜)、春木椿(松下洸平)っていう名前は嫌いじゃないけど、それに比べて佐藤紅葉(神尾楓珠)って地味に感じる。というか、春夏秋冬にまつわる名前なのか。
テーマは男女の友情。無二の親友・赤田(仲野太賀)が結婚することになり潮ゆくえは大喜びするが、赤田の妻がしょっちゅう旦那とカラオケに行っているゆくえが女性だと気付いた瞬間、もう会わないでほしいと赤田に告げ、彼もそれを承諾する。ゆくえはそれを渋々受け入れるが納得がいかない。
夜々は同僚と2人きりで遊んだら気があると勘違いされた上に「男と遊びたい言い訳にするのは良くない」と散々なことを言われる。
春木は引っ越し前日に婚約者を彼女の親友だった男友達に盗られてしまう。
ゆくえと紅葉は幼馴染みだということが終盤で明らかに。
という感じで男女の友情の是非みたいなものが色んな形で描かれていておもしろかったけど、どういうところに着地するのか気になる。
そもそも男女の友情について成立しないという人もいれば大賛成という人もいる。結婚すると、伴侶が異性の友人の存在を嫌がった場合は友情が破綻するか相手に理解してもらうか我慢してもらうかの3択となる。育ってきた環境や友人関係で価値観が違うのだから当たり前だろう。
そういえば、異性の友達とばかりいると同性の友達がいないなんて人間としてクズなんていう嫉妬からの汚名を着せられることもある。女において女友達が多いというのは性格がいいからではなく、同調圧力に屈することを苦としないかどうかの違いだけにも感じる。男においては、男同士のノリが苦手だという人もいるだろう。
さて、ドラマの例ではどうだろう。夜々の話に関しては相手がクズで間違いない。勝手に気があると勘違いするまではいいとしても、腕を掴んで自宅に連れ込もうとするのはセクハラ。もし誰もいない夜道だったら恐怖だろうし、性的同意なしで捕まる案件である。それに、別に男友達と2人きりで遊んでも問題ないだろう。なんで異性と遊んだら延長線上にセックスがあると思いたいのか。欲求不満がダダ漏れなのって恥ずかしよね。
ゆくえの件については気の毒に思いつつも、いくら友情といえ恋愛に発展しない可能性がゼロでない限り、赤田の判断は婚約者を第一に考えなければならないという結婚直前という状況下においては正しいと思わざるをえない。
そう、春木がこうむった被害(相手に損害賠償求めれるよ)のような状況に発展しないとも限らないからだ。ゆくえは赤田と恋愛に発展することはないと断言するが、趣味があって何でも話せるという希有な存在と、むしろなんで交際や結婚に発展しないのか不思議に思う人も多いと思うし。というか交際はしなくとも普通に結婚したい相手じゃないの、それ。
でもちょっと待てよ。昔、そういう異性の友人がいたなと思い返す。残念ながらその友人はもう鬼籍に入ってしまったが、趣味が合うというよりは幅広い知識からこちらが好みそうな文化をいろいろと提示してくれて、それがドンピシャだった。馬鹿を言い合いながら酒を飲んで自宅でごろ寝してもそういう関係になる雰囲気すらなかった。相手も私も恋愛対象として見るなんて思いもよらなかった。
そういう意味で、ゆくえにとって赤田が希有で大事な友人だったのだとしたら、ゆくえもなんだか気の毒になってきた。でも赤田の妻の目線でいくと、やっぱり異性の親友とふたりきりで遊んで欲しくないという思いは痛いほどわかる。しかも多部未華子。どう見てもモテルックス。そりゃ嫌に決まってる。嫉妬といわれようが、「夫となる人の親友がかわいくて賢くて性格もよい」となったら警戒するのが当たり前だよな、やっぱ。