『纏足の足 小さな足の文化史』を読む。


纏足の靴: 小さな足の文化史

昔から纏足は女性を家に閉じ込めて逃げられなくするための悪習で中国の恥部との考え方が日本では根強いけど、史実としては違うよという学術的な内容。

纏足って完成までにめちゃくちゃ時間がかかるし本人の協力がなくては仕上がらないものなんだよね。あと衛生的にも気をつけなきゃ死ぬレベルで大変な施術なわけで。

なので、中国ではだいたい13世紀から19世紀に纏足文化が盛んだったんだけど、ブームの終焉近く以外は裕福な家庭の女子が美しさとか良家の子女である証を嫁ぎ先に見せるために行われていたんだよね。

つまり当時は小さな足やそれによりよちよち歩く様子がこの上ない美だとされていたと。例えばさ、平安時代は下膨れですんごい上の方にちょこっとある眉だかなんだかわかんないメイクが超美人とされていた。スリムな人は栄養不足で貧相だとされていた。

昭和中期だってふっくらしたアイドルが人気だったし、スレンダーで白人風の彫り深、出目、中顔面短めの顔が人気なのはここ数年の話。時代によって美の価値観は想像できないほど変化する。そう、出目人気だってハシカンがヒットしたからで20年前は奥目が美人って言われてたよね? 今、奥目の子たちは何とか出目にしようと躍起になってるし、昔は面長が美人だったのに今では骨切りしてまで中顔面を短縮してる人結構いるよね? じゃなくても歯列矯正で噛み合わせを深めにして顔の縦幅を短くするなんてことは誰でもやってる。

そんな変わりゆく時代の中、13世紀の中国では10~15センチほどの小さな足が極上の美だったというわけです。ちょっと想像するの難しいけど、現代だって幅広足は安定感あるのにダサいっていわれて、オシャレな靴はだいたい幅狭だよね。何事も延長線上にある気がする。

まあ、纏足は淫具にするとか、足を巻いている包帯とパウダーと汗が混ざった臭いが性的魅力を誘発するとかいろいろあったみたいだけど、それだけじゃない。見た目の美しさが、たぶん天女みたいに見えたんだろう。足が小さくて今にもふわっと浮き上がりそうで。

本書では纏足がただの虐待と支配に満ちた文化ではなかったことを解き明かしていて、すごくわかりやすい。ちなみに出版は2005年。たしか私、そのころに既に纏足文化は支配ではなく美の文化って主張していたんだけど、変なフェミ男に恫喝されてウザい思いをした覚えがある。なんかたまにいるよね、女側の視点なんかまったく理解できないのに支配だ拘束は虐待だって叫ぶメンズ。あれ何なんだろう。しかも知識と情報量だけはご立派で口も達者だから言い返せない。でも男のきみたちには絶対に理解できない間隔ってのが女にはあるんだ。残念ながら。なので、ちょっとは女の視点に寄り添おうという姿勢くらい見せてくれ(というかガチで悪気なくわかんないんだろうとは思う)。

で、纏足。靴も刺しゅうやビジューの装飾が美しいものも残っていて、その時代の女性たちが誇りを持って自分たちの足を愛でていたことが分かる。オシャレって楽しいよねえ。決して閉塞された空間で、ただそれだけをよすがに生きていたって感じでもない。

コルセットとか存在感近いかも。シルクやサテンでツヤツヤ。編み上げもうっとりするほど美しい。でもあれ、内臓と骨に負担かけまくりで血流悪くなるから纏足みたいなもんだよ。たしかにすっごいスタイル良くはなるけど、腰痛とかヘルニアとかやばそう。

いつの時代でも、女子は体に悪くても美しさをとことんまで追求する生き物なんだねえ。そうそう、更年期の原因はホルモンバランスに加えて美しさを失っていく精神面のダメージが大きいかららしい。これだけメディアで「美こそ価値!」ってやってたら、そりゃそうなるよね。

1000年後には何が流行してるんだろう。ああそうだ、ヨーロッパとかで異様なデカヒップが流行してたけど、ああいう感じなのかな。どう考えもおかしいでしょ、って同じ時代でも思うんだけど、国が違うだけでもかなり流行って違うよね。そして時代が変わればもっと理解できないようなのが美の基準、象徴みたいになってる可能性は大いに有り得る。人の感覚なんてそれくらい揺らぐし周りに影響されやすいものだからね。