とりあえず松浦寿輝『花腐し』を読み終える。事業に失敗した男が負債を軽くするために知人の半グレな老人からの地上げ屋まがいな頼まれごとされ、半ば投げやりな気持ちで首を突っ込む。とある理由からマンション退去を渋っている男と出会った主人公は、その不気味な男がマジックマッシュルームを自宅で大量に栽培していることを知る。その妙に居心地の良い部屋には、ちょうどキメたばかりの、受け口なことを除けばかなり美形な20歳ほどのキャバ嬢が全裸で寝ており、バッドトリップして幻覚に苦しんでいる様子だった。主人公は雨が降っているその日、妙に仄暗い2人と長い時間を過ごすことになる。酒を飲みすぎて眠っていると女にべったりとまとわりつかれた感触で目を覚まし、淫靡に関係を持つ。とかそういう話だけど、短編に近い中編で、全編に渡ってひたすら闇を感じる暗い話で「腐ること」について話す2人の会話がとても好みだった。あと褥のシーンが炎が迫ってくるとか何とか妙に壮大で思わず笑ってしまったけど、これもかなり良かった。



10日から映画が始まるなと思い予告編を見たら、2人の男が1人女を愛してどうのこうの純粋な恋愛がとか、原作の要素皆無だったのでちょっと残念に思ってしまった。まあ原作のままだと映画化は難しかったのかな。原作者がプレ上映の舞台挨拶に登壇してるからいいんだろうけど、いやでも本当に良かったのか。完全に別物になってるのでは。別物として良作になっているのか。じゃあ何も『花腐し』でなくて良かったのでは。「2人の男とひとりの女が織りなす、切なくも純粋な愛の物語」ではないよね、原作は。関東は荒井晴彦。映画「火口のふたり」はとても良かった。さて。





バタイユが何をどう主張したかったのかを知るために論文と文献を漁る。バタイユにとって常軌を逸して自分という枠を超え、神と同一視点を得るという神秘体験こそが生の中でもっとも尊く、平凡な代わり映えのない労働に身を浸すことは怠惰である、と。キリスト教信者だったものの棄教して、その後は涜聖によって神を引きずり下ろす物語の人物たちに心血を注ぐことが彼にとって生きがいだった。


バタイユは100年前を生きた人なので、当然社会的背景が現代とは全くことなることにも注視すべき。『眼球譚』『わが母』の登場人物たちは現代の放蕩とは比べものにならないほど常軌を逸しているたはずで、今読んでも性的な突き抜け方が半端なく感じるのは、そうまでしないと神を引きずり下ろせないと感じていたからのかな。でもバタイユは神という存在について人間が作りしものとしているので、結局その向こうにあるのは人の想像力の産物……? 人が作りし神を引きずり下ろすことは、イコール神と同一の視点を獲得したと錯覚している人間を踏みにじりたかったのかな。一見いじわるに見えるその思想も、けれどそうすることが枠を超えることであるならバタイユ的な神秘体験の手段だったのでは。バタイユを理解するにはどうすればいいのか考えてる。


ネットに落ちてるバタイユ関連の論文を読み漁って遊んでいたら日が暮れたので藍川じゅん『鬼性欲ブスのOCCC道場』で箸休め。文字とおり鬼のような性欲を持つ筆者がさまざまなポケモンと出会って青天井の性欲と対峙しながら冷静に自分と相手を分析していくエッセイ。



結構前に『女の性欲解消日記』がめちゃくちゃおもしろいよ! と勧められて読んだら、そのパワフルな筆致と底なしの性欲に圧倒されて自分の悩みやストレスなどどうでも良くなったので、これは石丸元章『DEEPS』に並ぶ下劣系エッセイの名作だと感動したんだけど、今作も藍川のアグレッシブな行動力に圧倒されながら、ちょっと年齢を重ねて哀愁も感じるメタ視点が傷跡に滲みそうな感じはある。

しょっぱに登場した催眠術マニアと出会った話は、全く催眠にかかっていないのに変に空気を読んでかかっているふりをしたという涙ぐましいエピソードは笑いなしでは読めない。一方で、出会い系で出会った男と同僚と飲みに行ったらトイレにいった隙に「ヤリマンすぎて無理」と言われた話とか、出会い系バーに行ったら年齢層低めで心折れた話とか、アラフォーならではのちょっと切ない系のエピソードも満載。

そういえばちょっと前に藍川の祖父が新興宗教の教組で藍川が時期教祖を継ぐ可能性が浮上しているというnoteがバズっていた記憶。彼女が教祖になるなら入信したい人は腐るほどいるだろうな…とふと思う。ぜひエロと笑いを広めて皆を幸せにしてあげてほしい(なんか違う)。



梯久美子『狂うひと』に手を伸ばすも、あまりの分厚さと本編に関する副次的な情報の多さに慄いてしまい、これは『死の棘』を読まないことには読み進められないと思って映画「死の棘」をとりあえず見てみることに。

岸田一徳が島尾敏雄、松坂慶子がミホ役。全編に渡ってとにかく仄暗い。そして映画の中のミホはあかんタイプの毒親に見えてしまう。夫から被ったストレスゆえの行動に子どもを巻き込むことに断固として反対しているので、映画の中でもつら…と思ってしまうが、残り半分はちゃんと見ようと思う。映画としては画が美しくて、岸部一徳と松坂慶子がとにかく美声。いい声だなあと思っていたら、そういや岸辺は「ザ・タイガーズ」というアイドルグループのベーシストだったよなと思い出す。当時を知らないが、相性はサリー。名優のイメージしかないけど、コーラスとかやってたんだろうか。