ドラマ「秘密」とても良いよね。キャストも良いし、地上波で放送できるように改変した脚本も良い。正直、あまりに残酷な設定や展開から絶対に地上波だと無理だと思っていたので、上手に地上波向きにしていると思う。ちなみに私、清水玲子ファン歴ン十年。

貝沼がなんで教授なんだーっていう不平不満がネットでかなり散見されたけど、原作のままだと難しいと思う。原作の貝沼はスーパーで万引きしたところ捕まって、偶然見回り中だった薪さんと出会う。風呂に入っていないようなにおいがした貝沼を哀れに思って逃がしたら、悲劇につながったという設定。

どういう立場でも人って哀れまれるということに過剰に反応する。もしドラマでも設定がそのままだったとしてあのシーンを見て貝沼に自分を重ね合わせた人がいたとして、ネットで貧困層へのヘイトだと騒いだら? それにテレビっていう無料で誰でも見れるマスメディアで流したら、貝沼のような人が全て猟奇殺人犯予備軍みたいに思ってしまう人は残念ながらいる。そういう事態を危惧して、あえて貝沼が知識層で社会的地位の高い人間に書き換えたのだと思う。今のマスメディアでは、立場が弱い人が犯罪に向かいやすいと想起させるような描写は絶対にNGだから。それに、貝沼が第九システムを作ったっていう設定、呪われてかなり良いと思う。そのために28人も殺したって。

ドラマが良いので原作もとりあえず無印とseason 0(続刊、今月新刊2冊発売)を全部読み返してみた。

清水玲子作品ってかなりグロテスクなシーンでも読者に不快感を与えないためなのか、かなり美しく描かれてるんだよね。作者の技術力の高さもあるんだけど。だから視覚的グロがダメな私も幼少期から読めているわけで。

そういうフィルターに助けられながら、どの話が一番好きかなーって読み返してたんだけど、無印では「薬剤師刺殺事件」が好きだったかな。故郷を思う心や孤独の中で触れたたった一つだけのぬくもりとか、そういうアイテムで読者の心臓を狙ってくる。よい。雪子先生の親友の話もつらくてよい。

秘密は凄惨だったり残酷だったりする不可解な殺人事件の裏に隠された人情パートも秀逸で、使命感との間で揺れ動く薪さんが良すぎる。青木が、実は一見そうはみえなくても薪さんが人情深く愛情にあふれている人間だと思っている(多分実際には半分はそう)という設定なので、遺体が見つかった時点で全ての真実を見抜いた上で「あ、これ傷つく人出てくるからそっとしとこ……」みたいな感じで別の理由をつけて捜査に反対するとか、「実は後から薪さんの優しさだったと周りが気づく」みたいなエピソードもとても輝いてるね。立場から全てを説明できないだろうし、うまいなあと。

S0の方はさらに好きで、もう全部のエピソードに愛しかない。あえてその中で選べといわれたら、可視光線編かなあ。あまりにもかなしい。そして最後は警察官としての自分ではなく、母への愛から名誉を守った桜木さんに複雑すぎる気持ちを抱かせられたから、苦しくて最高だった。たぶん多くの人はその行いを称賛して支持し感動したっていうんだろうけど、私は(気持ちは分かりながらも)「まじかよ」という気持ちが強く、彼に降り掛かった運命や悲劇の残酷さに唸った。

タジク編も良いし一連のストーンヘンジ&光編も良い。全部良い。だから映像でも見てみたい、けど宗教系とカニバ系は無理だろうな……。

そうそう、タジク編のカザフスタンの核実験の件は全て実話なんだよね。恥ずかしながら村まで実在しているとは知らず、調べていくとあまりのひどい現実に背中に冷たいものが走った。なんて人間は醜いのだろう。なんで地球に住む人にランクをつけて下だと決めつけた人々を人間あつかいしないのか。そんな清水玲子の怒りを感じた話だった。あれを少女漫画誌で描くのは大変意義のあることだと思う。

そうなんだよね、秘密は人間の光(キャラじゃない方)と闇をコントラストはっきりに描いた作品でもある。青木は光。その光に憧れる薪さん。薪さんは光と闇を行き来する人。ストーンヘンジ児玉の息子である光は闇の人。でも青木の強い光で、少しそこに迎えたのかな。

薪さんが光に、変わらなくてもいいからなりたい人間のマネをしてみろ、そしたら周りがまず変わってくる、みたいな話をするシーンがある。あれは全ての親が子に読ませた方がいいと思う。私は三つ子の魂百まで派なので、動物を快楽からあやめるタイプの人間はもう絶対に変わることはないと思っているけど、それでも薪さんの言葉はもしかするとそんな人間にもほんの少し届くのかもしれないと思った。