工藤里帆監督の「裸足で鳴らせてみせろ」がドツボだったので、デビュー作であり卒制でぴあフィルムフェスティバルでグランプリを受賞した「オーファンズ・ブルース」を見た。これもめちゃくちゃ良い。やっと次世代で追いたいと思える監督を見つけた。

舞台はプレアポカリプスの多国籍国家となってるぽい日本。終わらない夏、主人公のエマは記憶が抜け落ちていく病気をかかえながらも幼馴染のヤンから届いた描き殴られたイラストを頼りに彼を探しに出掛ける。エマがたどり着いたのは風変わりな夫婦が運営している宿。そこに集まるフリーダムな人々。次第にヤンが行方不明になった理由が分かり始め……。

劇中の日本ではもうすぐ男も出産できるようになるらしく、さらに土地のほとんどが水没してしまうらしい。緩やかに迫りくるアポカリプスに焦っているふうでもない登場人物たちは、熱帯気候の気だるさの中で永遠に青春を過ごしているように見える。

その描き方や画の色彩、音、夏のむっとした熱気が感じられる空気すべてがすごく良くて、エマを演じた村上由規乃も自作で主人公を演じた佐々木詩音も世界観にあまりに馴染んでいて驚いた。当時、監督を含め彼らは芸大の学生だったことにも圧倒された。

すべてが明瞭に説明されず独特の雰囲気で進行する物語なので、わかりやすいエンタメ映画が好きな人が見てもハマらないとは思う。逆に、謎だらけでもとにかく雰囲気抜群なヨーロッパ映画とか邦画とかそういうのが好きな人にはたまらない。なので私としてはドツボだった。あと2000年前後のサブカル漫画とか好きな人は絶対好き。

それから、工藤監督が物語に組み込む繊細なエフェクトというか要素というか、そういうのがとても良い。裸足だったら、盲目の養母のために世界中を旅しているフリをしながら録音し続けるという設定とか。オーファンズだったら、アポカリプスの設定や記憶が抜け落ちていく主人公とか、日本が多国籍国家になっちゃってるとことか、ネタバレになるけど「嫉妬に狂ったルカがヤンの陰茎を切り落としてホルマリン漬けにしてること」とか(反転してね)。

そういう要素を散りばめて物語に落としこんでちゃんと成立させて、あんなにエモい映像に仕上げてくる監督が出てきたことがうれしすぎるね。

エンタメ映画は嫌いじゃないけど、超好き! とはならない。好みの問題なんだけど、がっつり記憶を貪られるような夢と現実のあわいに流れていくような、そんな頼りない古いフィルムのような映画が見たいんだ。大量に浴びさせてくれ。次回作にも期待。