『文藝』2023年冬季号を読む。20年くらい前の文藝賞受賞作品はかなり好きだったんだけど、ここ数年はピンとこなくてどうかなと思いながら最新号。久々の短編賞があって受賞作を楽しみにしていた。



受賞したのは17歳の西野冬器「子宮の夢」。とにかく言葉の操り方が心地よくてイメージがどんどん浮かんでくる。子宮をなげるというイベントがある世界の話。素晴らしい作家を発掘してくれたものだと感動した。次回作がとても楽しみ。彼女は絶対に素晴らしい作家になると思う。

文藝賞の方は小泉綾子「無敵の犬の夜」が受賞。心無い教師のせいで不登校になった不良になりきれない中学生の話。途中までは本当にぐいぐいと読ませてめちゃくちゃおもしろかったんだけど、主人公が東京に行って打ちひしがれたあたりから失速。最後はこれで良かったんだろうか。書き手に疲労感が伝わってきて残念だった。



続刊を読み続けている漫画をちらほら買う。ネタバレがあるので読んでいない人はスルー推奨。

安堂ミキオ『おつれあい』3巻完結。知能は高いけど表情から感情が読み取れないタイプの夫と、表情豊かで人に好かれる人当たりの良い妻の夫婦の話。1巻ではとある軽犯罪を犯して夫が逮捕されてしまう。

全体的にのほほんとした雰囲気だけど、登場するのはちょっと変わった人々。夫も、型に当てはめてしまえばおそらく広汎性発達障害(旧アスペルガー)の傾向があるんだろうと思う。「いや、そんなことする?」の連続。好意的に捉えれば一緒にいると新発見の連続で新しい視点を投げかけてくれそうだけど、普通は妻のように疲れ果てる。最終巻では、子どもが欲しくなった妻が夫に意見を求めるが、そのまま対話を遮断されてしまい、後に「妻だけで十分、子どもはいらない」みたいなことを言われる。しかし5年後、2人の間には娘が誕生していて幸せに暮らしているというオチ。



この漫画、結構好きだったんだけど最後のオチで何かがスッと冷めてしまう感覚があった。近年、子どもを意図的に作らない共働きの夫婦・DINKSが何かとやり玉に挙げられるけど、子どもが欲しくない人は欲しくないのだ。欲しくはならない。欲しくなる人は、それが大きな決断だと理解しているので子どもを持つことを保留する。結婚したら子どもを持つことが当たり前の人には理解し難いかもしれないが、人生において子どもを育てるというのは新たな仕事や趣味を持つことと同じで、それに興味がない人は一生ない。子育ては自分の思い通りにならない生物を金や時間を費やして育てる一種のゲームであり、与えられた子どもに死なない程度の障害があったら一生涯自分の時間を殺して向き合わなくてはいけないし、うっかり死なせることがあったら刑務所に収容され、逆に思い通りにならない苛立ちを我慢できずぶつけ続けたら殺される可能性だってある。

遺伝性の病気を持っていたが差別意識から親から伝えられておらず、2人を産んで2人ともが発症してから聞かされて「知っていたら産んでいなかった」と泣き崩れた人がいた。その病の平均寿命は50代。彼女は死ぬまで子どもの介護を続ける人生を歩んでいる。

と、子どもを持つことはそういうこともあると覚悟した上での選択になる。

周りを見渡すと、子どもがいなかったり独身の人は総じて裕福でスペックが高い。でも何かしらの事情があって子を持たないことにしている。その中には、子どもが嫌いだからという人もいるだろう。子は間違いなくこの国の宝だが、国のためを思って子どもをつくる人なんているんだろうか。皆、自分のために作って育てている。だから、作らないのも自分のためであり、その選択は同等に扱われるべきである。

『おつれあい』最終巻で子が欲しくなかった夫がなぜ子を持つことに了承したんだろうと、モヤってしまった。その描写はない。子を見る夫の優しい表情で察してほしいということなのか。ああは言っていても人は変わる、と描きたかったんだろうけど、多様性が叫ばれる世になる前の作品に一気に引き戻されて見せつけられたようで残念な気持ちだった。あそこで子を持たないまま5年後になって、夫は職を持って幸せに暮らしました、じゃ駄目だったんだろうか。2巻まで結構おもしろかっただけに本当に残念だった。


スタニング沢村『佐々田は友達』1巻。作者の旧名はペス山ポピー。名作『泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』の作者のフィクション? になるのかな。



友達がいない佐々田はクラスのヒエラルキー頂点の陽キャ・高橋に気に入られて、彼女と友情を育んでいく話。著者の『女の体をゆるすまで』でも感じたけど、とにかくメタ視点が素晴らしくて自分に正直で残酷で、それは読者にも突き刺さる。本作はフィクッションかなと思いながら、後半でもしかすると半自伝なのかもと思わせる。人との距離感や境界線、相手を別の人間として尊重すること。それは、著者が生きてきた中で常に意識せざるをえなかったものかもしれない。それらは物語に昇華された。才能だなー。2巻も楽しみ。



Xで毎週バズってる『地元最高』も4巻が出た。めちゃくちゃ好きだというと「ああ好きそー」といわれる。察して。



今回はゆなちぃ先輩VSサキ、小春さんのバトルがメイン。普段は小便臭い小春さんがめちゃくちゃ強い。というか酒と薬に手を出さなきゃ強い人なんだよね。そして、あいかわらずシヅカさんはメンヘラでいい感じだし紅麗亞さんの表情は邪悪すぎて最高。希望の光を見て外に救済を求めたモモカとゆなちぃは結局出れず終い。最近、田舎から外に出たくて紆余曲折するも結局出れなくて悶々としてるっていう話流行ってるよね。コロナ禍で上京できない人が増えたからなのかな。

地元最高の主人公はシャネルちゃんなんだけど、CHANELの売上げに貢献してるんでは? と勝手に思ってる



岩浪れんじ『コーポ・ア・コーポ』6巻。第1部完とあったけど最終話らしい。え、終わったの? ていうか最終話は終わりな感じだけど、続きを死ぬほど楽しみにして生きたので胸に穴が開いてしまった。いつかぜひ続きを……。



大阪の治安悪めな地域にある格安コーポの住人を中心としたオムニバス。6巻はあとがきも秀逸で、どうやら作者がかつて夜逃げすることになった文化住宅がモデルとのこと。作者の人生が壮絶で衝撃を受けたんだけど、同作全体に漂う「なんてことないんだけどね~」みたいなゆるい空気はこの人生あってのことかと納得。その雰囲気が狂おしいほど好きだった。

何度も読み返しては何がこんなに好きなんだろうと考えるけど、登場人物たちが大したことを大したことだと受け止めず、「まあしょうがないよね~」というゆるいスタンスで流すでもなく受け入れるでもなく、淡々と事情として眺めている様子にやすらぎを感じのかも。自分がいいことも悪いことも何でも大げさに言われ捉えられ、それをぶつけられ、揺さぶられてきたからだと思うんだけど、こういうゆるい人たちに囲まれていたら良かったなあと思う。

ちょっとしたことも大げさに捉えて大げさに他人に伝えて、まるで舞台女優かのようにふるまう人が苦手というか生理的に駄目だからかもしれない。同作はこれと対極の人物ばかりで、読むたびに救われたような気がした。感謝しかない。映画も楽しみだな。まじで終わったしまうのかな…寂し……。