BL出身の漫画家先生ってめちゃくちゃ濃厚で心理的にロジカルな物語を描いてくれるよね……なら、致死量のメリバBLを浴びたらいいんじゃない? ってことであちこちで調べまくったメリバBLを13作品くらい読んだのでいくつかレビューしてくね。
●『またね、神様』ヴヤマ
宗教囚われ系。美形な同級生に惚れたら、その子の母親がよくわかんないセックス系の神様を崇めてて救済のための依代にされちゃってるという設定。最初はその子を助けるつもりが……。
有無を言わせず地獄に突き落とす宗教系っていいよね。BLのスパイスで悲劇ってつきものだけど、宗教ってだけで説明いれずで途端に真っ暗になる。主人公もどんどん闇に堕ちてくのが最高で、それも悪気のない相手がそうさせてるという。良作でした。あ、メリバじゃなくて個人的にはハピエン判定です。
●『にいちゃん』はらだ
BLのメリバ界隈で天才と名高いはらだ先生の作品。幼いころに近所に住むにいちゃんによくしてもらって惚れてた主人公。ついでにあれこれされてて向こうとしてはおもちゃくらいにしか思ってなかったのに……。
と書くとありがちなストーリーに見えるけどさ、はらだ先生なので普通の話ではありません。トラウマとかグルーミングとか犯罪加害者家族とか重量級のネタが随所に散りばめられて上手に収束していく感じは本当に天才なんだな……と思わせます。
グルーミング。おさない子が手名付けられてっていうアレ。性的同意年齢まではどの国でも恋愛感情はないってことにされてるね。それどうなのってたぶんみんな思ってると思うし、実際、12歳でがちな恋愛してる子たちっていたじゃん。まあ同級生とかならたとえやってても問題ないぽいけど、それが年上になると途端にアウト。
ちょっと前に話題になった映画「ジェンーの記憶」もそんな話だったよね。たしかに背伸びしたい気持ちに付け込まれる子も多いと思うんだけど、そうじゃない子も稀にいる。特にすごく賢い子って精神的にもめちゃくちゃ大人なんだよ。実際、周りにもかなり若い年齢のときにすごい年上の男性と付き合ってたっていう子はいたし、実際に後に結婚している子もいた。SNSを見るとそういう人たちがこぞって「今思うときもい」って言ってるけど、その人たちはそう感じたことが正しいし、逆にそう感じないっていう人がいることも知られたらいいのにーって思った。
さて、『にいちゃん』はこの“知られたらいいのにー”っていうタイプの話だと思う。たぶん。グルーミングされて洗脳されたまま解けませんでした、っていう悲劇を描いてるわけじゃないと思うんだ。だから、世間へのはらだ先生なりの皮肉なのかなって。うまいな。
というわけで、メリバ判定されてるけど個人的にはハピエンかな……と思いました。
●『カラーレシピ』はらだ
そんなはらだ先生の大ヒット作『カラーレシピ』。正直上巻の最初の方は美容師さんたちの普通の楽しそうな日常って感じで惹かれなかったんだけど、ある瞬間に「っっっ!!」ってなった。ええ、あのシーンです。
これ……ほんとによくできた仕掛けが何層にもなっていて。とあるキャラが軽度のホワイトサイコパスなんだけど(ソシオパスじゃないよ)、恋愛においてはそれがブラックに染まりそうなほどグレーなんだよね。
で、相手を手にするためには手段を選ばない。心理的にじわじわと絡め取っていきながら、最後は上手に堕ちてくるように心理操作すると。その描写が最高だし、ぐんぐん読ませました。
なので、これもメリバって言われてるけど、ハピエンでは……? と思った次第。ていうか多分私のハピエン判定がバグってんだと思うんだけど、世間的にバッドエンドでも当人たちが幸せそうならいいじゃん? というよりも、たぶん冷静に見たらもしかしたらやばくないって状況だけど当人は気付いてないしいいんじゃない? というのはハピエンに思えてしまうのです。たぶん世間的にまともな人たちが読んだら、ああこれはメリバ……って思うのかな。
●『紅い椿と悪い虫』博士
めちゃくちゃおもしろかった。やっばい秀才系サイコパスに目を付けられた美少年の話。そんな美少年が心を寄せる先生も登場して……。
博士先生が一番好きなのはやっばい秀才の貝柄くんらしく。ですよねーっていうのがとてもよく伝わってくる楽しそうな凌辱と懊悩の数々でした。たぶんバタイユとか好きな人が好きなストーリーだと思う。限界を超えたところにある神秘体験を得たいがために、相手をどん底に落としてるように見えて……っていうね。
BL界隈では胸糞作品だと言われてるけど、ラストも綺麗なメリバで最高でした。
●『白い朝』森世
大人気森世先生の秀作。淫乱系男子はピアスとかタトゥーとかたくさんで被害妄想も強くて、どう見てもボダっぽいんだけど、その理由は……? これ、自分がされたことのトラウマの再現+反復強迫で、キャラが全体的にいいなーって思いながら読みました。
BLに限らず漫画とかアニメとか映画のキャラで多大なる人気を誇るサイコパスの皆さん。今回もいい感じのサイコパスが登場していて、そのやばさとタゲられてる立場のキャラの心理の変遷がめちゃくちゃ緻密に描かれて大好物でした。そうか、こうしたらこうなるのか、みたいな。
で、これは純粋なハピエンでした。メリバを求めている人には途中の鬱展開はいいかもだけど、ラストはそうじゃないのでお気をつけて。
●『いのりをつなぐ』鳩
劇物BLを某掲示板でお勧めしていたあなた、ありがとう。見事に上質でドギツいメリバを浴びることができました。
これは史実ベースで実際に存在してる難病におかされた男子と、その子を思う男子の切ない遠距離恋愛もの。発症した子は療養所へ。そして、家族も差別の対象に。
もうこの時点でこれをBLの題材にすること自体、倫理的にアウトだと思う人は読まないで。私はこういう題材はよいと思います。だって、たぶん当時本当にひどい差別があって、それは国の責められるべきずさんな管理とくだらない矜持を守るためだったんだよ。たぶんそういうことが行われていたってことを若い人たちは知らないよね。特効薬開発後も隔離政策は続いたし、物語の舞台は服の感じからたぶんそのあたりの時代のことだと思う。
BLという形で描かれてはいるけど、そういうことがあったと知るきっかけとしてはアリだと思う。近年のパンデミックでもありえない差別が散見されたじゃん。人間って結局繰り返すね。
物語はだからこそ暗く考えさせられる内容になっている。BL要素抜いても全然成立する話ではあるけど、鳩先生はその畑の人なのでこういう表現で伝えつつ、メリバファンを唸らせるエンタメ作品としても昇華させたのかな。秀作でした。
●『心中するまで、待っててね。』市梨きみ
メリバといえば『心中するまで、待っててね。』をあげないとフェアじゃない。そんな爆売れ作品です。たぶん伝説になるくらい売れてる。ただ、残念ながら私には刺さらなかった。その理由を述べてくので、推してる人は読まないでね。白で反転させてます。
まず、そもそも幽霊物があまり得意ではないんだよね。個人的に。ドアの血文字が生きてない。おじさんが同じアパートにいるのは葵くんが引き寄せたにせよできすぎ。福ちゃんは基本的にすごくいい子なのに、葵のためにだんだん壊れていって人を手にかけるまでの変遷がもう少し丁寧に描かれてほしかった。劇場型でもないと思うし。葵くん、いくら実家がいやでもおじさん家で大人しく何日も過ごすんだろうか……。クッキー缶の要素もおじさんが買ってきたものじゃなくて、例えば福ちゃんと一緒に食べた空のクッキー缶に2人で大事にしていたものを閉じ込めて秘密基地に置いていて、ママに基地を壊されたときにボロボロになったそれが転がってて拾い上げた→それを持ったままおじさんちにいった→最後、そのクッキー缶の中に……って感じだったらめっちゃ良かった、ラスト……! ってなったかも。だって結局葵くんのご機嫌をとるためにおじさんが買ったものでしょ。それを最後、福ちゃんが大事そうに抱きかかえて雪原を歩いているのはどうしても違和感……。
と、読めば読むほど設定に突っ込んでしまって、残念ながら引き込まれませんでした。たぶんありとあらゆる鬱映画とか鬱漫画とかを何十年も読み漁った結果だね、これは。たぶんそうじゃなければ絵もすてきでキャラの造形もかわいくて、キャラの悲惨な過去もあいまってハマっていたと思う。支持される理由もよくわかる。ただ私には刺さらなかったというだけなのです。ごめんね。
●『好き、大嫌い、愛してる。』ARUKU
これは……なんというか読み始めと最後の感想が大きく違う作品。不覚にも泣いてしまった。ちなみにメリバなの……? マジ……? え、不明エンドだっていってよ……。
最初は絵の感じが結構ギクシャクしていて、それがかなり気になって読みづらかった。セリフとかモノローグとか効果とかいろいろ荒削りな部分がギャグに見えちゃって。展開も想像上の田舎をよりひどく脚色した感じでこれは……って感じで、正直途中で読むのやめようかなと思ったんだけど、ある瞬間からぐっと惹きつけられるように。
そのあたりから、もしかして昭和50年代の暗い雰囲気を描くためにわざとそうしてたの? ってすら思うようになって、だんだん凍月所長がいい人に見えてくるんだよ。ちなみにこの人、劇中でなんと3回も刺されます。
もう最後の方は彼のひたむきさとかが痛いほど伝わってきて、ああそうかこれがこの作品の魅力……と感じさせました。ちなみに7年前の作品で、2025年出版の作品はかなり絵が上達されててびっくりした。
●『穢れのない人』虫飼夏子
さて、とんでもないデビュー作も読みました。これもメリバというかハピエンな気がする。男児への強姦&殺人の罪で服役していた元神父と、真犯人の切ないラブストーリー。書いてる時点でやばいな。
鬱系BLなら普通さくっと復讐展開になりそうなだけど、元神父なので許そうとする主人公。
で、真犯人がなぜそんな罪をおかしたかの過去も出てきて、暗澹たる気持ちにさせてくれました。
ただ、そこまで刺さらなかったのは、やっぱりいくら理由があれど何の罪もない子どもを手にかけた彼をサクッと許しちゃうという展開かなあ。まあそれが主題でもあるんだけど。こう、許しに至る気持ちをもっとしつこいくらい描いてほしかったかなと末端の鬱漫画ファンは思うのです。
やっぱりねBLといえど、そこまでやばい犯罪については嫌悪する人も多いと思うの。だからこそ、読者の嫌悪感を中和するくらい丁寧に描きこむことが大事かなと。
●『二世の息子』収録「夜は未だ明かぬ」コモトミ裕間
表題はそんなに刺さらなくて、収録されていた「夜は未だ明かぬ」が良かった。メリバです。メリバ。すごくメリバ。
兄弟子たちの性処理をさせられている若き僧侶の主人公。あるときそんな身の上がつらくなって、寺に多額の援助をしている“先生”とその妻と暮らすように……。
ネタバレすると実は先生が黒幕で、若き僧侶を淫乱に育てるために、住職に援助をちらつかせて兄弟子たちに手籠めにさせていた(白で書いてます)ってオチなんだよね。
短編ながら、いい……! と思わず唸りました。こう人の尊厳を踏みにじってまで自分の欲望を満たすキャラっていいよね。あ、先生もサイコパスだと思います。
●総評
さて、他にもいろいろ読んだんだけど、いろんな意味で記憶に残ったのは以上でした。とはいえ、BLレーベルから出てないものの同性愛がひとつのテーマとなっている最高傑作のメリバ『午後の光線』を超えるものは私の中でいまだ存在せず。めちゃくちゃ好きです。最高傑作。
あ、でも。今ふと思い出したけど、ルネッサンス吉田先生の茜新地花屋散華』はとても名作だよね。あと小野塚カホリ先生の『我れに五月を』も良い。言い出したらキリがないので、このへんで。
●『またね、神様』ヴヤマ
宗教囚われ系。美形な同級生に惚れたら、その子の母親がよくわかんないセックス系の神様を崇めてて救済のための依代にされちゃってるという設定。最初はその子を助けるつもりが……。
有無を言わせず地獄に突き落とす宗教系っていいよね。BLのスパイスで悲劇ってつきものだけど、宗教ってだけで説明いれずで途端に真っ暗になる。主人公もどんどん闇に堕ちてくのが最高で、それも悪気のない相手がそうさせてるという。良作でした。あ、メリバじゃなくて個人的にはハピエン判定です。
●『にいちゃん』はらだ
BLのメリバ界隈で天才と名高いはらだ先生の作品。幼いころに近所に住むにいちゃんによくしてもらって惚れてた主人公。ついでにあれこれされてて向こうとしてはおもちゃくらいにしか思ってなかったのに……。
と書くとありがちなストーリーに見えるけどさ、はらだ先生なので普通の話ではありません。トラウマとかグルーミングとか犯罪加害者家族とか重量級のネタが随所に散りばめられて上手に収束していく感じは本当に天才なんだな……と思わせます。
グルーミング。おさない子が手名付けられてっていうアレ。性的同意年齢まではどの国でも恋愛感情はないってことにされてるね。それどうなのってたぶんみんな思ってると思うし、実際、12歳でがちな恋愛してる子たちっていたじゃん。まあ同級生とかならたとえやってても問題ないぽいけど、それが年上になると途端にアウト。
ちょっと前に話題になった映画「ジェンーの記憶」もそんな話だったよね。たしかに背伸びしたい気持ちに付け込まれる子も多いと思うんだけど、そうじゃない子も稀にいる。特にすごく賢い子って精神的にもめちゃくちゃ大人なんだよ。実際、周りにもかなり若い年齢のときにすごい年上の男性と付き合ってたっていう子はいたし、実際に後に結婚している子もいた。SNSを見るとそういう人たちがこぞって「今思うときもい」って言ってるけど、その人たちはそう感じたことが正しいし、逆にそう感じないっていう人がいることも知られたらいいのにーって思った。
さて、『にいちゃん』はこの“知られたらいいのにー”っていうタイプの話だと思う。たぶん。グルーミングされて洗脳されたまま解けませんでした、っていう悲劇を描いてるわけじゃないと思うんだ。だから、世間へのはらだ先生なりの皮肉なのかなって。うまいな。
というわけで、メリバ判定されてるけど個人的にはハピエンかな……と思いました。
●『カラーレシピ』はらだ
これ……ほんとによくできた仕掛けが何層にもなっていて。とあるキャラが軽度のホワイトサイコパスなんだけど(ソシオパスじゃないよ)、恋愛においてはそれがブラックに染まりそうなほどグレーなんだよね。
で、相手を手にするためには手段を選ばない。心理的にじわじわと絡め取っていきながら、最後は上手に堕ちてくるように心理操作すると。その描写が最高だし、ぐんぐん読ませました。
なので、これもメリバって言われてるけど、ハピエンでは……? と思った次第。ていうか多分私のハピエン判定がバグってんだと思うんだけど、世間的にバッドエンドでも当人たちが幸せそうならいいじゃん? というよりも、たぶん冷静に見たらもしかしたらやばくないって状況だけど当人は気付いてないしいいんじゃない? というのはハピエンに思えてしまうのです。たぶん世間的にまともな人たちが読んだら、ああこれはメリバ……って思うのかな。
●『紅い椿と悪い虫』博士
めちゃくちゃおもしろかった。やっばい秀才系サイコパスに目を付けられた美少年の話。そんな美少年が心を寄せる先生も登場して……。
博士先生が一番好きなのはやっばい秀才の貝柄くんらしく。ですよねーっていうのがとてもよく伝わってくる楽しそうな凌辱と懊悩の数々でした。たぶんバタイユとか好きな人が好きなストーリーだと思う。限界を超えたところにある神秘体験を得たいがために、相手をどん底に落としてるように見えて……っていうね。
BL界隈では胸糞作品だと言われてるけど、ラストも綺麗なメリバで最高でした。
●『白い朝』森世
大人気森世先生の秀作。淫乱系男子はピアスとかタトゥーとかたくさんで被害妄想も強くて、どう見てもボダっぽいんだけど、その理由は……? これ、自分がされたことのトラウマの再現+反復強迫で、キャラが全体的にいいなーって思いながら読みました。
BLに限らず漫画とかアニメとか映画のキャラで多大なる人気を誇るサイコパスの皆さん。今回もいい感じのサイコパスが登場していて、そのやばさとタゲられてる立場のキャラの心理の変遷がめちゃくちゃ緻密に描かれて大好物でした。そうか、こうしたらこうなるのか、みたいな。
で、これは純粋なハピエンでした。メリバを求めている人には途中の鬱展開はいいかもだけど、ラストはそうじゃないのでお気をつけて。
●『いのりをつなぐ』鳩
劇物BLを某掲示板でお勧めしていたあなた、ありがとう。見事に上質でドギツいメリバを浴びることができました。
これは史実ベースで実際に存在してる難病におかされた男子と、その子を思う男子の切ない遠距離恋愛もの。発症した子は療養所へ。そして、家族も差別の対象に。
もうこの時点でこれをBLの題材にすること自体、倫理的にアウトだと思う人は読まないで。私はこういう題材はよいと思います。だって、たぶん当時本当にひどい差別があって、それは国の責められるべきずさんな管理とくだらない矜持を守るためだったんだよ。たぶんそういうことが行われていたってことを若い人たちは知らないよね。特効薬開発後も隔離政策は続いたし、物語の舞台は服の感じからたぶんそのあたりの時代のことだと思う。
BLという形で描かれてはいるけど、そういうことがあったと知るきっかけとしてはアリだと思う。近年のパンデミックでもありえない差別が散見されたじゃん。人間って結局繰り返すね。
物語はだからこそ暗く考えさせられる内容になっている。BL要素抜いても全然成立する話ではあるけど、鳩先生はその畑の人なのでこういう表現で伝えつつ、メリバファンを唸らせるエンタメ作品としても昇華させたのかな。秀作でした。
●『心中するまで、待っててね。』市梨きみ
メリバといえば『心中するまで、待っててね。』をあげないとフェアじゃない。そんな爆売れ作品です。たぶん伝説になるくらい売れてる。ただ、残念ながら私には刺さらなかった。その理由を述べてくので、推してる人は読まないでね。白で反転させてます。
まず、そもそも幽霊物があまり得意ではないんだよね。個人的に。ドアの血文字が生きてない。おじさんが同じアパートにいるのは葵くんが引き寄せたにせよできすぎ。福ちゃんは基本的にすごくいい子なのに、葵のためにだんだん壊れていって人を手にかけるまでの変遷がもう少し丁寧に描かれてほしかった。劇場型でもないと思うし。葵くん、いくら実家がいやでもおじさん家で大人しく何日も過ごすんだろうか……。クッキー缶の要素もおじさんが買ってきたものじゃなくて、例えば福ちゃんと一緒に食べた空のクッキー缶に2人で大事にしていたものを閉じ込めて秘密基地に置いていて、ママに基地を壊されたときにボロボロになったそれが転がってて拾い上げた→それを持ったままおじさんちにいった→最後、そのクッキー缶の中に……って感じだったらめっちゃ良かった、ラスト……! ってなったかも。だって結局葵くんのご機嫌をとるためにおじさんが買ったものでしょ。それを最後、福ちゃんが大事そうに抱きかかえて雪原を歩いているのはどうしても違和感……。
と、読めば読むほど設定に突っ込んでしまって、残念ながら引き込まれませんでした。たぶんありとあらゆる鬱映画とか鬱漫画とかを何十年も読み漁った結果だね、これは。たぶんそうじゃなければ絵もすてきでキャラの造形もかわいくて、キャラの悲惨な過去もあいまってハマっていたと思う。支持される理由もよくわかる。ただ私には刺さらなかったというだけなのです。ごめんね。
●『好き、大嫌い、愛してる。』ARUKU
これは……なんというか読み始めと最後の感想が大きく違う作品。不覚にも泣いてしまった。ちなみにメリバなの……? マジ……? え、不明エンドだっていってよ……。
最初は絵の感じが結構ギクシャクしていて、それがかなり気になって読みづらかった。セリフとかモノローグとか効果とかいろいろ荒削りな部分がギャグに見えちゃって。展開も想像上の田舎をよりひどく脚色した感じでこれは……って感じで、正直途中で読むのやめようかなと思ったんだけど、ある瞬間からぐっと惹きつけられるように。
そのあたりから、もしかして昭和50年代の暗い雰囲気を描くためにわざとそうしてたの? ってすら思うようになって、だんだん凍月所長がいい人に見えてくるんだよ。ちなみにこの人、劇中でなんと3回も刺されます。
もう最後の方は彼のひたむきさとかが痛いほど伝わってきて、ああそうかこれがこの作品の魅力……と感じさせました。ちなみに7年前の作品で、2025年出版の作品はかなり絵が上達されててびっくりした。
●『穢れのない人』虫飼夏子
さて、とんでもないデビュー作も読みました。これもメリバというかハピエンな気がする。男児への強姦&殺人の罪で服役していた元神父と、真犯人の切ないラブストーリー。書いてる時点でやばいな。
鬱系BLなら普通さくっと復讐展開になりそうなだけど、元神父なので許そうとする主人公。
で、真犯人がなぜそんな罪をおかしたかの過去も出てきて、暗澹たる気持ちにさせてくれました。
ただ、そこまで刺さらなかったのは、やっぱりいくら理由があれど何の罪もない子どもを手にかけた彼をサクッと許しちゃうという展開かなあ。まあそれが主題でもあるんだけど。こう、許しに至る気持ちをもっとしつこいくらい描いてほしかったかなと末端の鬱漫画ファンは思うのです。
やっぱりねBLといえど、そこまでやばい犯罪については嫌悪する人も多いと思うの。だからこそ、読者の嫌悪感を中和するくらい丁寧に描きこむことが大事かなと。
●『二世の息子』収録「夜は未だ明かぬ」コモトミ裕間
表題はそんなに刺さらなくて、収録されていた「夜は未だ明かぬ」が良かった。メリバです。メリバ。すごくメリバ。
兄弟子たちの性処理をさせられている若き僧侶の主人公。あるときそんな身の上がつらくなって、寺に多額の援助をしている“先生”とその妻と暮らすように……。
ネタバレすると実は先生が黒幕で、若き僧侶を淫乱に育てるために、住職に援助をちらつかせて兄弟子たちに手籠めにさせていた(白で書いてます)ってオチなんだよね。
短編ながら、いい……! と思わず唸りました。こう人の尊厳を踏みにじってまで自分の欲望を満たすキャラっていいよね。あ、先生もサイコパスだと思います。
●総評
さて、他にもいろいろ読んだんだけど、いろんな意味で記憶に残ったのは以上でした。とはいえ、BLレーベルから出てないものの同性愛がひとつのテーマとなっている最高傑作のメリバ『午後の光線』を超えるものは私の中でいまだ存在せず。めちゃくちゃ好きです。最高傑作。
あ、でも。今ふと思い出したけど、ルネッサンス吉田先生の茜新地花屋散華』はとても名作だよね。あと小野塚カホリ先生の『我れに五月を』も良い。言い出したらキリがないので、このへんで。