映画「ピアニスト」が大好きなんだけど。ハネケの。でね、見たときからずっと今の今まで、30代なかばのピアノ教師の教授が若いイケメンに見初められて、決意から自身の秘められた性嗜好を明かして玉砕する話かと思ってた。
でも、シーンによってこの解釈だと不可解……っていうところがあって、エルフリーデ・イェリネクの原作を読んでみることに。彼女はオーストリアの大御所作家でノーベル文学賞を獲っていて、さらに実力派のオルガン奏者っていう変わった経歴の持ち主。経歴としてはヴィーン大学中退で地方の音大卒業→オルガン奏者の国家資格取得、らしい。
そんなイェリネクの人気作品をハネケが映画化したのが同作。大好きなイザベル・ユペールが主演とあって、食い入るように見たのは何年前だっけ。20年くらい前? そこには、最高のエリカがいた。不器用で男性経験も乏しくて、ひたむきにピアノに打ち込んできたけど過干渉の母のもと、密かにマゾヒストとして成長した悲しき孤高の秀才がいた。
そして、そんなエリカを見初めた、何でも器用にこなしてしまう要領が抜群に良いイケメンのワルター。金髪、長身、青い瞳。さらにウィーン工科大学の学生だったのに、エリカを追って難関の音楽学校の試験を楽々とパスして入学してきてしまう。
で、ここからは、まだ映画しか見てなかった頃の私の感想。結果的に大間違いでした。
ワルターの求愛になかなか応えられないエリカ。それは10歳以上の年齢差でありまぶしい存在の彼が末永く自分を愛するという自信がなかったから。そしてエリカにはどうしても隠し通すことができない性嗜好があった。彼女はその特異な環境で母に心理的に虐げられられ続けたことから、真性のマゾヒストに成長していた。ポルノショップに通って捨てられていた使用済みティッシュを嗅いでみたり、ドライブインシアターに行って行為にふけるカップルを覗き見して放尿したり……。虐げられることは苦痛であったはずなのに、いつしか性的快楽や興奮の回路と結びついてしまっていた。もし男性と交際したらこの性嗜好を隠すことはできず、またそれをひた隠しにして愛を囁く嘘っぽさは彼女には耐えられなかった。
だからエリカは意を決してワルターに手紙で告白した。そこには自分がどうやって虐げられたいかが切々と綴られていた。しかし、わかりやすい上流階級でスクールカーストトップのワルターにはそれが病的に映ってしまう。治療しなきゃ、というワルターの言葉にショックを受けるエリカ。
別の日。ワルターのもとを訪れたエリカは彼に謝罪した。あんなことを言うべきでなかったと。しかしワルターの意識はもはやエリカから遠のいているように見える。必死にワルターにすがりつくエリカ。体育館倉庫のような場所でワルターの性的快楽を満たすためにどうにか尽力するも、結果的にそんなエリカの姿に幻滅したワルターはさらにひどい言葉をあびせる。でもワルターなりにエリカの意に沿うように意識を向けていたのかもしれない。
更に翌日。ワルターの気持ちは既にエリカにはないように見えたのに、彼は苛立った様子で夜中にエリカの自宅を訪問する。どうしてもまだエリカを諦めきれない様子で彼女の願望を叶えてやると、憤りながら殴る。最終的に彼女を犯すにいたるが、甘い雰囲気を期待しても一向に無表情のエリカに今度こそ本当に失望して去っていった。
別の日。音楽学校の大事なコンサートが開催。ロビーでワルターを待つエリカ。すると親族と一緒に慌ただしく現れるワルター。エリカを見てもお決まりの笑顔で、何事もなかったかのように社交辞令をいう。エリカはそんなワルターに失望し、バッグに忍ばせていたナイフで自らの胸を刺した。
というあらすじなんだけど、エリアが決死の告白→ワルターが受け入れられない→でもワルターもエリカへの愛から諦めきれない→エリカの願望を叶えようと試みる→既にエリカの気持ちが様変わりしていて2人の気持ちがすれ違う→すれ違ったまま、エリカは犯される→犯された報復に刺そうと決意→ワルターの態度に打ちのめされて耐え難い羞恥心から自傷した。という流れだと思っていたんだよね。
でも、なんで願望が満たされたのに嬉しそうじゃないんだろう、とか疑問は残っていた。
そこで疑問を解消すべく原作を読んでみたら、私の憶測が完全に筋違いであることが判明!
どうやらワルターは年上のエリカとちょっと火遊びしたかっただけで、最初から長く付き合う気持ちはない。一方エリカはわりと本気。本気なので、自分のマゾヒスティックな思いを告白して願望を伝えつつも、実際には愛しているからそんなことはしたくないとワルターに拒否してほしかったらしい。ええ……。
ごめん、原作読むまで全然わからなかった。本気で。
だから流れとしては、ワルターがちょっかい出す→エリカ本気に→手紙出す→拒否してほしい→ワルターにはその真意が見抜けない(いや見抜けねえよ……)→エリカ、それに気付いてすがりつく→ワルター、まだエリカがガチで殴ってほしいと思ってる→ワルター、殴りにいくも、そこからラブラブモードに発展すると思ったらしない→エリカ、まずそもそもワルターに殴られたくないし、いきなり挿入されたから痛いし甘い雰囲気どころじゃない→犯されたこと&自分の気持ちを汲み取らなかった怒りで刺してやりたい→ワルターにとってはエリカほど重い出来事じゃなかったことに気づく→恥ずかさに打ちのめされそうになって自ら刺して抑えた(いわゆるリスカと同じ)
というのが正解らしい。原作としては。
最高におもしろいと思う。そして、映画見ただけじゃこれはわからなかったよね。映画は映画で最高なんだけど、映画を見ただけで原作の流れをちゃんと把握できた人てどれくらいいるんだろう。
とにかく作品としては、男性の気持ちを全く予測できなかった女性とそんな女性の真意を見抜けなかった男性の切ないすれ違いの物語なんだよ。
だからハネケの作品で異色だなと思ってたけど、全然異色じゃなかった。うん。
でも、シーンによってこの解釈だと不可解……っていうところがあって、エルフリーデ・イェリネクの原作を読んでみることに。彼女はオーストリアの大御所作家でノーベル文学賞を獲っていて、さらに実力派のオルガン奏者っていう変わった経歴の持ち主。経歴としてはヴィーン大学中退で地方の音大卒業→オルガン奏者の国家資格取得、らしい。
そんなイェリネクの人気作品をハネケが映画化したのが同作。大好きなイザベル・ユペールが主演とあって、食い入るように見たのは何年前だっけ。20年くらい前? そこには、最高のエリカがいた。不器用で男性経験も乏しくて、ひたむきにピアノに打ち込んできたけど過干渉の母のもと、密かにマゾヒストとして成長した悲しき孤高の秀才がいた。
そして、そんなエリカを見初めた、何でも器用にこなしてしまう要領が抜群に良いイケメンのワルター。金髪、長身、青い瞳。さらにウィーン工科大学の学生だったのに、エリカを追って難関の音楽学校の試験を楽々とパスして入学してきてしまう。
で、ここからは、まだ映画しか見てなかった頃の私の感想。結果的に大間違いでした。
ワルターの求愛になかなか応えられないエリカ。それは10歳以上の年齢差でありまぶしい存在の彼が末永く自分を愛するという自信がなかったから。そしてエリカにはどうしても隠し通すことができない性嗜好があった。彼女はその特異な環境で母に心理的に虐げられられ続けたことから、真性のマゾヒストに成長していた。ポルノショップに通って捨てられていた使用済みティッシュを嗅いでみたり、ドライブインシアターに行って行為にふけるカップルを覗き見して放尿したり……。虐げられることは苦痛であったはずなのに、いつしか性的快楽や興奮の回路と結びついてしまっていた。もし男性と交際したらこの性嗜好を隠すことはできず、またそれをひた隠しにして愛を囁く嘘っぽさは彼女には耐えられなかった。
だからエリカは意を決してワルターに手紙で告白した。そこには自分がどうやって虐げられたいかが切々と綴られていた。しかし、わかりやすい上流階級でスクールカーストトップのワルターにはそれが病的に映ってしまう。治療しなきゃ、というワルターの言葉にショックを受けるエリカ。
別の日。ワルターのもとを訪れたエリカは彼に謝罪した。あんなことを言うべきでなかったと。しかしワルターの意識はもはやエリカから遠のいているように見える。必死にワルターにすがりつくエリカ。体育館倉庫のような場所でワルターの性的快楽を満たすためにどうにか尽力するも、結果的にそんなエリカの姿に幻滅したワルターはさらにひどい言葉をあびせる。でもワルターなりにエリカの意に沿うように意識を向けていたのかもしれない。
更に翌日。ワルターの気持ちは既にエリカにはないように見えたのに、彼は苛立った様子で夜中にエリカの自宅を訪問する。どうしてもまだエリカを諦めきれない様子で彼女の願望を叶えてやると、憤りながら殴る。最終的に彼女を犯すにいたるが、甘い雰囲気を期待しても一向に無表情のエリカに今度こそ本当に失望して去っていった。
別の日。音楽学校の大事なコンサートが開催。ロビーでワルターを待つエリカ。すると親族と一緒に慌ただしく現れるワルター。エリカを見てもお決まりの笑顔で、何事もなかったかのように社交辞令をいう。エリカはそんなワルターに失望し、バッグに忍ばせていたナイフで自らの胸を刺した。
というあらすじなんだけど、エリアが決死の告白→ワルターが受け入れられない→でもワルターもエリカへの愛から諦めきれない→エリカの願望を叶えようと試みる→既にエリカの気持ちが様変わりしていて2人の気持ちがすれ違う→すれ違ったまま、エリカは犯される→犯された報復に刺そうと決意→ワルターの態度に打ちのめされて耐え難い羞恥心から自傷した。という流れだと思っていたんだよね。
でも、なんで願望が満たされたのに嬉しそうじゃないんだろう、とか疑問は残っていた。
そこで疑問を解消すべく原作を読んでみたら、私の憶測が完全に筋違いであることが判明!
どうやらワルターは年上のエリカとちょっと火遊びしたかっただけで、最初から長く付き合う気持ちはない。一方エリカはわりと本気。本気なので、自分のマゾヒスティックな思いを告白して願望を伝えつつも、実際には愛しているからそんなことはしたくないとワルターに拒否してほしかったらしい。ええ……。
ごめん、原作読むまで全然わからなかった。本気で。
だから流れとしては、ワルターがちょっかい出す→エリカ本気に→手紙出す→拒否してほしい→ワルターにはその真意が見抜けない(いや見抜けねえよ……)→エリカ、それに気付いてすがりつく→ワルター、まだエリカがガチで殴ってほしいと思ってる→ワルター、殴りにいくも、そこからラブラブモードに発展すると思ったらしない→エリカ、まずそもそもワルターに殴られたくないし、いきなり挿入されたから痛いし甘い雰囲気どころじゃない→犯されたこと&自分の気持ちを汲み取らなかった怒りで刺してやりたい→ワルターにとってはエリカほど重い出来事じゃなかったことに気づく→恥ずかさに打ちのめされそうになって自ら刺して抑えた(いわゆるリスカと同じ)
というのが正解らしい。原作としては。
最高におもしろいと思う。そして、映画見ただけじゃこれはわからなかったよね。映画は映画で最高なんだけど、映画を見ただけで原作の流れをちゃんと把握できた人てどれくらいいるんだろう。
とにかく作品としては、男性の気持ちを全く予測できなかった女性とそんな女性の真意を見抜けなかった男性の切ないすれ違いの物語なんだよ。
だからハネケの作品で異色だなと思ってたけど、全然異色じゃなかった。うん。

