文藝を引き続き読んでるんだけど、図野象『おわりのそこみえ』がめちゃくちゃおもしろかった。寝る前に読み始めたら私には珍しく目が冷めて一気に読んでしまった。え、なんで大賞じゃなく優秀作なの? と思うほどよかった。たぶん理由は圧倒的に大賞受賞した作品の方が圧倒的に文章力が高かったからかなと。『おわりのそこみえ』は最初のあたりの文章力がいまいちで、途中から乗ってきたのか格段にアップしていたものの、人物たちの思想を描かせたら光るのに性的な描写をはじめとして客観的な視点になると途端にトーンダウンする。あと使い古された比喩が結構多くて、一方で独自性のある例えになると少しピンとこなかったり。でもこれは今後おそらく磨かれていくと思う。
構成や読ませる力、最後まで息切れしないストーリーなど文句なしに素晴らしかった。図野象の次回作が早くも読みたくなってる。才能とかセンスってこういうことだなと。
『おわりのそこみえ』は買い物依存症でセックス依存症で、借金まで抱えている顔だけは美人な美帆が主人公。彼女と取り巻く環境は奇妙。高校時代に一瞬付き合った元彼・宇津木がずっとストーカーしていて、どう考えても一緒にいてつまらない性悪の幼馴染の加代子と腐れ縁でつるんでいる。さらに暇つぶしに出会い系アプリで知り合った男と食事→ホテルが日常で、たまたま知り合った腐ったバンドマンみたいな男・アメにハマってしまう。その男には前から憧れてた美人の異国人の彼女であるナムちゃんがいて、偶然彼女は美帆の行きつけのアジアン料理のスタッフだった。あるとき美帆は幼馴染と一緒にアプリで知り合った男2人とホテルで4Pするが、男たちうは先に帰ってしまい、美帆も後を追う。その後、ニュースで幼馴染が窓から飛び降りて死んだことを知り…という展開。
美帆はとんでもなく駄目人間で、でも駄目なところから這い上がろうともしないし這い上がる気力もない。とことん自分の容姿に頼り切った人生であるのに、それにすら気づいていない。でもそんな容姿の良さから培われた人懐っこさは多分武器。ナムちゃんに浮気がバレてもなぜか許されて、3人で仲良くなってしまうコミュ力の高さはある。ナムちゃん以外の人物たちは基本的に愛すべきダメ人間たち。しかし駄目には駄目の哲学があって、物語の随所で彼らの信念が語られる。
中でも美帆のママの言葉が秀逸で、首がもげそうなほどうなずいてしまった。以下にその前後を引用する。
───図野象『おわりのそこみえ』より引用
まさにその通りだと思う。
物語の起承転結も素晴らしくて、結が個人的にはこの上ない最高の終わり方だと思った。映画化されるならちゃんと作ってくれ、間違っても絶対改変するなよ、と思う。ここ数年読んだ中編小説で一番良かった(とかいいながら他の作品もゴチゴチに褒めてるかもだけど)(あと最近ノンフィクションばっか読んでて小説とんと読めなくなってたけど、フィクション愛が復活できたのもこれのおかげかも)。
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野田彩子『ダブル』5巻が12月14日発売! 待ってた! あとNetflixでドラマ版も配信開始してる! 見るの怖いけど見るよ!
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漫画。ひの宙子『やがて明日に至る蝉』を読む。以下、ネタバレするので注意。
かつて帯広に住んでいた小学生のころ、幼馴染イケメン兄弟の兄・ナオの方に性加害されていたという過去を持つ主人公。主人公は性加害を受けたときナオのことが好きで、親もそれを知っていたため純粋に被害者になれないのではないかみたいなことをいわれる。結局、札幌に引っ越してナオと弟のはるとは疎遠に。しかし、はるの父親が札幌に転勤となって再会。主人公は当時のことで心に傷を負っているものの明るく振る舞っているが、腕にはリストカット帽子のゴム(リストカット代用として有名)を付けてたびたび弾いているところを見るとトラウマは解消されていない。
いろいろあって、兄は弟にも性的虐待を繰り返していたことが発覚。弟が兄にされている現場を撮影していて児相に告発。主人公の復讐を果たすという話。
よくできているなあと思った。好意を持っている人に付け込まれて性的になぶりものにされる子ども。そういうのって想像以上に多いのでは。加害者が100%悪いのに、まるで好意を持っていたこと自体が悪のようにいわれる。物語ではナオが一番の悪として描かれているけど、私は主人公の母親がかなりやばいと感じた。人を好きになる気持ちに罪悪感をもたせるようなことをするな、と。人を好きになったことが元凶のようなことをいうなと。想像力が足りなさするのはしょうがないとしても、その至らなさで子どもを傷つけるべきではないよねーと読んでいて思いましたよ。
同じ作者の『最果てのセレナード』も気になるな……。
構成や読ませる力、最後まで息切れしないストーリーなど文句なしに素晴らしかった。図野象の次回作が早くも読みたくなってる。才能とかセンスってこういうことだなと。
『おわりのそこみえ』は買い物依存症でセックス依存症で、借金まで抱えている顔だけは美人な美帆が主人公。彼女と取り巻く環境は奇妙。高校時代に一瞬付き合った元彼・宇津木がずっとストーカーしていて、どう考えても一緒にいてつまらない性悪の幼馴染の加代子と腐れ縁でつるんでいる。さらに暇つぶしに出会い系アプリで知り合った男と食事→ホテルが日常で、たまたま知り合った腐ったバンドマンみたいな男・アメにハマってしまう。その男には前から憧れてた美人の異国人の彼女であるナムちゃんがいて、偶然彼女は美帆の行きつけのアジアン料理のスタッフだった。あるとき美帆は幼馴染と一緒にアプリで知り合った男2人とホテルで4Pするが、男たちうは先に帰ってしまい、美帆も後を追う。その後、ニュースで幼馴染が窓から飛び降りて死んだことを知り…という展開。
美帆はとんでもなく駄目人間で、でも駄目なところから這い上がろうともしないし這い上がる気力もない。とことん自分の容姿に頼り切った人生であるのに、それにすら気づいていない。でもそんな容姿の良さから培われた人懐っこさは多分武器。ナムちゃんに浮気がバレてもなぜか許されて、3人で仲良くなってしまうコミュ力の高さはある。ナムちゃん以外の人物たちは基本的に愛すべきダメ人間たち。しかし駄目には駄目の哲学があって、物語の随所で彼らの信念が語られる。
中でも美帆のママの言葉が秀逸で、首がもげそうなほどうなずいてしまった。以下にその前後を引用する。
「ね、やっぱりそれしかなの? 貧乏でバカでなんの才能もない女は男に媚びるしかないの?」
お母さんは私をバカにしたように笑う。
「それのなにが嫌なのよ。あれかしら、女が下に見られるのが嫌、女を敬え、みたいなこと? 最近の女の人たちってよくあんなみっともないこと言えるわよね。そう思わない? どの口で女の権利を主張してんのよと思うわ。男のご飯代を多めに支払ってもらいたいし、家に出たゴキブリは男に処理してもらいたいし、車の運転は男に任せて助手席に座りたい。そんな女ほど言うのよ、女はつらいだの男に搾取されてるだの。お互い利用すればいいだけじゃないの。あんたも、自分でなんとかできるなら頑張ればいいけど、バカなフェミニストになるくらいなら男を利用すう方法を考えなさい。体売らなくてもなんとでもなるから。女の強さは男と同じ土俵で発揮するものじゃないのよ」
───図野象『おわりのそこみえ』より引用
まさにその通りだと思う。
物語の起承転結も素晴らしくて、結が個人的にはこの上ない最高の終わり方だと思った。映画化されるならちゃんと作ってくれ、間違っても絶対改変するなよ、と思う。ここ数年読んだ中編小説で一番良かった(とかいいながら他の作品もゴチゴチに褒めてるかもだけど)(あと最近ノンフィクションばっか読んでて小説とんと読めなくなってたけど、フィクション愛が復活できたのもこれのおかげかも)。
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野田彩子『ダブル』5巻が12月14日発売! 待ってた! あとNetflixでドラマ版も配信開始してる! 見るの怖いけど見るよ!
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漫画。ひの宙子『やがて明日に至る蝉』を読む。以下、ネタバレするので注意。
かつて帯広に住んでいた小学生のころ、幼馴染イケメン兄弟の兄・ナオの方に性加害されていたという過去を持つ主人公。主人公は性加害を受けたときナオのことが好きで、親もそれを知っていたため純粋に被害者になれないのではないかみたいなことをいわれる。結局、札幌に引っ越してナオと弟のはるとは疎遠に。しかし、はるの父親が札幌に転勤となって再会。主人公は当時のことで心に傷を負っているものの明るく振る舞っているが、腕にはリストカット帽子のゴム(リストカット代用として有名)を付けてたびたび弾いているところを見るとトラウマは解消されていない。
いろいろあって、兄は弟にも性的虐待を繰り返していたことが発覚。弟が兄にされている現場を撮影していて児相に告発。主人公の復讐を果たすという話。
よくできているなあと思った。好意を持っている人に付け込まれて性的になぶりものにされる子ども。そういうのって想像以上に多いのでは。加害者が100%悪いのに、まるで好意を持っていたこと自体が悪のようにいわれる。物語ではナオが一番の悪として描かれているけど、私は主人公の母親がかなりやばいと感じた。人を好きになる気持ちに罪悪感をもたせるようなことをするな、と。人を好きになったことが元凶のようなことをいうなと。想像力が足りなさするのはしょうがないとしても、その至らなさで子どもを傷つけるべきではないよねーと読んでいて思いましたよ。
同じ作者の『最果てのセレナード』も気になるな……。